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チベットツアーに行くためのビザ待ちのために、15日間足止めを食らっていたカトマンズで、友達が出来た。
カトマンズへ入ってすぐに仲良くなった彼は、チベット出身のネパール人だった。
15日間を一つの都市に滞在するにはとても長く思えて、本当は違う都市へも行ってみるつもりだったけど、わたしは新しい街よりも自然よりも、人に興味を持った。
朝も、昼も、夜も、晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、ずっと一緒に居た訳ではなかったけれど、時間が合えばバイクでいろんな場所へ遊びに出かけた。
ネパールにせっかくきたんだからと、世界遺産。
「なんでそんないっつもモモが食べたいかね」と呆れられながらもネパール料理を紹介してくれたり・・・
彼のお兄さんと一緒に、朝方までW杯を応援したり。
明日は何を話そうか、どんな景色が見れるのか、そんなことが毎日の楽しみだった。
「なにこれ・・・汚ー!!!」「こんなもんだろ。笑」
彼はお金を出したがっていたけれど、遊びに行くときは、お金は交互に払った。
世界一周をうらやましがっていて、スペインに行きたいって言っていた。
「このあとスペイン行くよ!一緒に行こうよー!」
「いや、金ないよ。笑 そんなすぐは無理。」
なんとなく、わたしは彼がお金持ちなのではないかと思っていた。
彼はわたしよりも立派なカメラと携帯を持っていたからだ。
「えええ・・・ねぇ、給料いくらなの?」
「600ネパールルピー(600円)」
「時給?」
「日給。」
「は!?本当に!?どうやってそのカメラとか買ったの?」
「前はもっといい仕事してたから。長年貯めて。」
「ほおおおう・・・」
その日から、なんとなくちょっと多目にお金を出すようになった。
でも、そのぶん次にたくさん奢ってくれるもんだから、意味がないのだけど。
彼は写真を撮るのが大好きで、カメラを持って色んな景色を撮りに行った。
あまりに大切そうに一枚を撮るから、わたしもそれから一枚を大事に撮るようになった。
「見て、同じポーズ(笑)」
彼が動物園で、突然わたしのカメラを奪った。
そして、無言でシャッターを切って、ぱっと返した。
「なんかふと幼少期思い出した。」
彼は、チベット生まれだけれども、ネパールでもうずーっと暮らしていて、国籍もネパールだ。
インターナショナルスクールに通っていたせいか、英語もとても流暢で、わたしは彼の低い英語の音が心地よくて大好きだった。
性格も、素朴なチベット人のイメージとはかけ離れている。
「ねぇ、もうずっとネパールに住んでるって言ってたけど、どこがホームなの?」
「はぁ、面白い質問だな。うん・・・チベットだね。」
「チベットのこと覚えてるの?」
「覚えてないよ、なにも。俺、すごい小さかった時だから。」
彼はチベット語を話せる。だけど、書けない。
これは彼が幼い時にチベットを離れた証拠。
一度出たものには、厳しい。俺は戻れないんだよ。
でもいつか戻って、見てみたい。
わたしがカトマンズで一番好きだった場所は、湖だった。
彼は「今」に居るのが好きで、でも「今」にいるようで、どこか遠くを見ていた。
なんとなく落ち込んだ時にこの湖に来て、魚にエサをあげるんだと言っていた。
「落ち込むことなんてあるんだ。」
冗談まじりに言った質問に、彼は彼の秘密を話してくれた。
そして、いじわるそうに笑って言った。
「なんでこれ話すと思う?君が“temporary”だから。」
彼が魚のエサを3袋買っていて、そんなにいらないからシェアしようと言ったとき、「あんた、仏教徒かクリスチャンかなにか?」と言われた。
「いや、違うけど・・・」
「ああ、だから・・・You are so bad」
えええ!?一体なぜ!?
彼は桁違いに温かかったけれども、桁違いに失礼な野郎だった。
あるとき真剣なことを話してる時に、「Hey, your English sucks」と言われたことがある。
そうだがなんて失礼な!!!
と思って、たった2週間の間に、何度かケンカをした。(わたしも失礼な発言を連発して怒らせたのでお互い様だけど)
そんな時は、一人で街を歩いたり、他の友達と遊んだり。
なんだかここで暮らしてるかのように錯覚してたけど、もうすぐここを離れるのか・・・
ケンカはいつの間にか終わっていて、彼は「Thank you」も「sorry」も嫌いだったから、どっちが「ごめん」ということもなく、自然にまた遊びに出かけた。
カトマンズを離れる前日、初めて一緒に乾杯した。
ものっすごく色んな話をして、とても楽しくて、とても寂しくて、わくわくして、切なくて、複雑で。
遠くて大好きな友人と別れる時。
カナダから始まって、もう何度も経験してるけど、全然慣れない。
また動けなくなる。でも、それなら先へ進もうと決めた。
カトマンズ最後の日の朝、見送りに来てくれた。
最後の挨拶も「See you」で、同じように、また戻ってこようって思った。
でもいつになるのかな?
“ネパールに戻ってきたらまたお店に来てよ。俺はそこにいるから。”
でもいつになるのかな?
たった2週間の出会い。
でも忘れられない2週間で出来た、大好きな友達。
ジープの窓を開けて、小さくなって行く彼を見つめながら、カトマンズのごみごみとした街の中に消える彼を見つめながら、何度も後ろを振り返って手を振ってくれる彼を見つめながら、もう少しで涙が溢れそうになりながら、彼がいなくなるのを見ていた。
また、絶対に会いたいって思った。そして、無理かもしれないとも。
出会ってくれてありがとう。
一緒にいてくれてありがとう。
教えてくれてありがとう。
色んな景色を見せてくれてありがとう。
って山ほど言いたかったけど、彼は「ありがとう」が嫌いで受け取ってくれなかった。
でもありがとう以外に、何を言ったら良いか分からない。
だから、そこへは戻れない彼の代わりに、チベットの今を見てこようと思った。
もうずっとネパール人になっていても、チベットのことを全く覚えてなくても、「チベットがホームだ」という彼のために、「チベットはチベットだ」という彼のために。
そこにいつか戻れるように想いを込めて、残して、そして「君の故郷はすごく美しかったよ!」って、わたしが見た景色を見せたい。
それが、今のわたしが新しい友達に返せる、唯一のことだと思ってた。
彼の故郷で、彼とシェアできることを見つけてこようと。
離れるのは寂しくて泣きそうで、でも新しい旅と出会いの始まりに胸が高鳴って。
そんな出発の日、カトマンズの最後の朝だったのです。
チベットを、しっかり見てこよう。
一枚一枚、丁寧にシャッターを切ったその写真たちが、この旅のすべて。
*チベット編はこちらからどうぞ!「チベット自治区ツアー1日目」
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